平成15年7月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 大塚竜央
平成15年(ネ)第1634号 損害賠償請求控訴事件(原審・横浜地方裁判所平成
12年(ワ)第1157号)
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決中,控訴人らに関する部分をいずれも取り消す。
(2) 被控訴人は控訴人らに対し,別紙請求債権一覧表記載の金員及びこれに対する平成12年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 被控訴人
主文と同旨
第2 事案の概要等
事案の概要は,次のとおり付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要等」に記載(ただし,原判決書25頁末行の「乗した」を「乗じた」に改める。)のとおりであり,証拠関係は,本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから,これらを引用する。
1 控訴人らの補足的主張
(1) 土地価格,建物価格を分けて決めることが可能か否かについては,単に建物の区所有等に関する法律のみで解釈すべきものではない。通常の不動産であればいざ知らず,本件のような若葉台団地という一つの集団の団地を形成し,この団地の中にショッピングセンターや学校などの施設も備えられている団地においては,環境についての評価はその土地の価値に反映されるものであるから,消費者は土地の価格に関心を示すものである。控訴人らの多くは,本件物件の環境を重要視し,購入をしているものであるから,まさしく本件の土地の価値を重くみていたのである。このような本件事案の特殊性の下では,建物の区分所有等に関する法律22条以外にも考慮すべき要素は多数存在するものである。
(2) 行政法規において,原価主義がうたわれている場合,その法律の下で定められる分譲価格や公共料金に関して,原価主義は単なる内部的な準則として司法審査の対象としないという原審の判断は法治主義の下における司法審査を放棄するものである。原価主義の適用が問題とされた水道料金の値上げをめぐる行政訴訟において,東京高等裁判所は,水道法,地方公営企業法に規定する原価主義の規定は,これによることができない個別具体的な合理的事由がある場合を除いて適用されるべきであり,料金の違法性の判断に際しては,原価にかかる数値を審査対象として,原価主義に照らしての具体的判断を行っている(東京高等裁判所平成14年10月22日判決,判例時報1806号3頁)。原価主義の規定の行政法規体系の下の制度においては,これを私法的な判断基準としては適用されないとして,この点に関する判断を回避した原審は,地方住宅供給公社法及び同法施行規則の解釈を誤るものである。
2 控訴人らの補足的主張に対する被控訴人の反論
控訴人らが引用する東京高等裁判所の判決は,給水契約に水道法及び地方公営企業法の原価主義に関する規定を直接適用したものではない。また,上記判決で問題とされた水道の利用にあっては,利用者には供給者を選択する余地がなく,給水関係には市場原理は働かないのに対し,不動産の売買にあっては,どれを購入するかは購入者の自由であり,そこでは市場原理が貫徹されている。実際,控訴人らにとって,若葉台団地の物件は購入を検討していた複数の物件の一つにすぎず,控訴人らは,各自の判断で若葉台団地の物件を選択して購入しており,両者の関係は質的に異なるものである。
3 控訴人らの予備的主張
被控訴人には,信義則上,控訴人らに対し,正確かつ適正な説明をし,本件分譲契約の締結について,控訴人らに適切,自由に判断させるべき注意義務(虚偽の説明をしない義務)があったにもかかわらず,これを怠り,著しい高額な値付けをし,それを無理矢理販売するために不正確かつ不適切なセールストーク(虚偽の説明)を行い,控訴人らに本件分譲契約を締結せしめたものである。
被控訴人の説明義務違反により,控訴人らは著しく高額な不動産を購入することとなり,また,その結果従前のうたい文句であった良好な住環境とはほど遠い,数年にもわたり空き部屋の多い公団に居住させられ,さらに同一物件を自己の半値で購入した住民と同居せしめられ,多大な精神的苦痛を被った。この精神的苦痛を慰謝せしめるには控訴人ら一人当たり1000万円は下らない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと考えるが,その理由は,次のとおり付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点についての当裁判所の判断」に記載のとおり(ただし,原判決書29頁2行目の「譲渡物件の品質や」の次に「本件団地における医療・教育・ショッピングなどの利便性その他住居」を,3行目の「第11,」の次に「乙8の@ないしC,9の@ないしC,」を,31頁24行目の「終了するまでの間(」の次に「積立分譲住宅の」をそれぞれ加える。)であるから,これを引用する。
1 控訴人らの補足的主張に対する判断
(1) 控訴人らは,本件団地のように一つの集団の団地を形成し,団地の中にショッピングセンターや学校などの施設が設けられている場合においては,環境についての評価はその土地の価値に反映され,控訴人らの多くは本件譲渡物件の環境を重要視して購入しているものであるから,暴利行為の有無の判断において本件譲渡価格のうちの土地価額部分を考慮すべきである旨主張する。しかし,区分所有建物の敷地持分権は区分所有建物と分離して処分することができないものであり,本件譲渡契約も敷地権付建物として一体としての譲渡価格に基づいて締結されたものであるから,本件譲渡物件の価値と譲渡価格の間に社会的相当性を逸脱するような不均衡があるか否かの判断に当たっては,上記のような利便性が土地価格部分に影響を与えたとしても,譲渡価格の一部である土地の価額部分のみを取り出してこれと想定される土地価額部分の適正価格とを対比することは相当ではない。
(2) 施行規則6条1項及び7条1号の規定から被控訴人には,契約縮結から少なくとも5年間は施行規則6条1項が規定する原価主義によって定められた価格を遵守,維持すべき義務が課されているとの控訴人らの主張を採用することができないことは,原判決書31頁6行目の冒頭から32頁8行目の末尾までに記載のとおりである。控訴人らは,水道法,地方公営企業法に規定する原価主義の規定はこれによることができない個別具体的な合理的事由がある湯合を除いて適用されるべきである旨主張するが,生活上不可欠であり,かつ,利用者には供給者を選択する余地がないなど市場原理が働かない水道の利用関係と,本件のような購入するかどうかは控訴人らが自由に選択することができる不動産の売買取引とは全く異なるものであって,本件敷地権付建物の分譲に原価主義を適用することはできない。
2 控訴人らの予備的主張に対する判断
被控訴人について説明義務違反が存しないことは,原判決書33頁21行目の冒頭から36頁19行目の末尾までに記載のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく控訴人らの予備的主張は理由がない。
第4 結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文,61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。
(平成15年6月2日口頭弁論終結)
東京高等裁判所第17民事部
裁判長裁判官 秋山 壽延
裁判官 藤村 啓
裁判官 志田 博文 |