2001/9/09
被告側準備書面(第9回口頭弁論から)

平成12年(ワ)第1157号 損害賠償請求事件

                                            平成13年9月5日
                   準 備 書 面(9)

横 浜 地 方 裁 判 所
第 五 民 事 部 合 議 係  御 中

第1 原告ら準備書面7第2、1に対する認否及び反論

「著しい価格格差の具体的検討」とある部分について否認する。理由は、以下(1)ないし(6)においてそれぞれ述べるとおりである。また、被告が、引用文中のものを除き、平成7年の譲渡価額に関して「地価動向」という言葉を用いたことはない。


(1) 同(1)について

原告らは、その主張の基礎としている原告ら準備書面7別表1記載の公示価格年別変動率が、若葉台団地周辺のものか、横浜市域のものか、神奈川県下全域のものか、さらに広い地域のものか、はたまた全国的なものか、つまり、どこの公示価格に関するものであるのかを、同準備書面においては何ら明らかにしないまま、被告に認否を求めている。しかし、地価公示の対象地域は都道府県・圏域・各標準地等様々であり、算出方法も用途別・人口規模別・沿線別等様々であり、公表されている資料は膨大なものである。そのいずれによるものであるのか原告らが明らかにしなければ、本来、認否はできないものである。
原告らの平成12年9月20日付準備書面を参考にすると、原告らの主張する公示価格年別変動率は、東京圏の住宅地についての数値らしいと思われるが、それによっていると考えて良いのか確認したい。
仮に、東京圏の住宅地の公示価格年別変動率を基にするのだとすれば、平成11年の数値を100とした場合、同7年は120.0、同4年は157.0という原告らが主張する数値は認める。
なお、被告が、引用文中のものを除き、平成11年の譲渡価額に関して「地価動向」という言葉を用いた事実はない。


(2) 同(2)について

@ 第1段落は認める。

A 第2段落のうち、第16期と平成7年と同11年の各分譲販売に供した土地は、同条件で土地取得・開発・造成が行われたことは認めるが、その余は否認ないし争う。なお、若葉台団地17期は平成6年に販売されたが、原告らは、同18期1次・2次と共にこれらを同7年のものとして主張しているので、以下においては、それに従うものとする。
原告らの主張は、原告らのいうところの「原価主義」を前提としているものと思われる。原告らは、「原価主義」の定義を明確にしないまま今日に至っているが(被告準備書面(6)7頁)、原告らの従前の主張からすれば、施行規則第6条第1項が掲げる諸費日の合計金額をもって分譲住宅の譲渡の対価とすることを意味するものではないかと思われる。
しかし、同条項は、分譲住宅の譲渡対価の決定に際し、同項が掲げる諸費目を合計した金額を標準として決定することを要請してはいるが、その合計金額を目安として地方公社が様々な要素を考慮してその上方であっても下方であっても然るべき価格を決定すべきことを定めているにすぎない(平成12年8月23日付被告準備書面10頁)。
原告らのいう原価構成は変わらないという主張が、原告らの上記考え方によるものであるとすれば、被告は、原告らの主張を、否認ないし争う。
なお、大阪地裁平成10年3月19日判決(乙22)は、「本件住宅地の原価が一定であることを前提として、被告らの給付と本件各物件の販売価格との対価的不均衡の発生を判断することが相当とは思われないし、そもそも、後記のとおり、住宅地のいわゆる適正価格が原価との関係で一律に算定されるものとも思われないのである。」「住宅地の売買の場合であっても、その販売価格は、自由経済、市場経済の中で、原則として当事者の合意によって形成されるもので、右価格につきどのような合意に達するかは、需要と供給の相互の関係や、契約時の経済事情等に大きく影響されるものなのであり、実際の販売価格が適正なものであるかどうかは、住宅地の原価のみから判断しうるものではない」と言い、原告らのいう「原価主義」を否定している。
また、東京地裁平成12年8月30日判決(乙26)は、「施行規則(筆者注;当時の住宅・都市整備公団法施行規則)12条1項(筆者注;本件においては、施行規則第6条第1項に相当する)は原告ら主張の原価主義を定めたものと解することもできない」とし、その理由を以下のように述べている。「原告らは、施行規則12条1項は、譲渡対価は原価によって決定されるとする趣旨の原価主義を規定したものである旨主張する。しかし、施行規則12条1項は、譲渡の対価は、原価を「基準として、公団が定める。」としているのであって、原価を基本とし他の要素も加味して公団が主体的に決定する趣旨の規定と解されること、同条に続く13条は、物価その他経済事情の変動等に伴い必要があると認めるときは、12条の規定にかかわらず、譲渡対価を変更し、又は譲渡対価を別に定めることができる旨定めているのであって、施行規則において、譲渡対価はすべて施行規則12条1項に定める基準によるものでなければならないとされているわけではないこと、法(筆者注;当時の住宅・都市整備公団法)54条1項は、「公団は、毎事業年度、損益計算において利益を生じたときは、前事業年度から繰り越した損失をうめ、(中略)積立金として整理しなければならない。」と規定しているのであって、公団の分譲住宅事業から利益が生じることを予定し、公団が原価を上回る譲渡対価を設定し、原価との差額を取得しうることを前提としていることなどに照らすと、施行規則12条1項が原告ら主張の原価主義を規定したものとは解されない。」


(3) 同3について

否認する。理由は以下のとおりである。

@ 原告らが、16期分譲住宅のうち原告ら準備書面7別表3記載の住宅を、鑑定書(乙10ないし13)が対象としている物件と「同タイプ類似」のものであるとすることは、否認する。一般に、「同タイプ類似」であるか否かは、専有面積、間取りその他の条件を比較対照して判断するが、別表3記載の住宅の専有面積はまちまちで、上記鑑定書が対象としている物件の専有面積79.13平方メートルに一致するものはない。

A 消費税から建物価額を求めようとするときは、「建物価額分=消費税×1.03÷0.03」となり、「土地価額分=譲渡総額−建物価額分」となることは認める。ただし、ここでいう「建物価額分」には、消費税額を含む。

B 別表3について、「販売価額の土地価額分は、1平方メートルあたり49.0万円であ」ることは、49.1万円とされているものもあるので、認めることはできない。また、別表3の「m2単価(万円)」の算出式は何ら明らかにされていないが、「譲渡価額(万円)」欄中の「土地」の数値を、「土地持分(m2)」の数値で割ったものと推測される(この「土地持分(m2)」の算出根拠も明らかにされていないが、登記簿上の敷地全体の面積に当該住戸の敷地権割合をかけたものと思われる)。その結果は、49.00ないし49.06である(小数点以下第3位切り捨て)。これを小数点以下第2位を四捨五入すると、住戸番号3−11−706は49.1になるはずであるが、49.0とされており、計算間違いまたは五捨六入しているようである。
なお、別表3の「譲渡価額(万円)」欄中の「計」の数値は、「建物」の数値と「土地」の数値の合計であり、「消費税」の数値は含まないとする限りで計算は正しい。言い換えると、「消費税」の数値は、「建物」の数値に含まれているとする限りで計算は正しい。

C 「公示価格から推定される(適正と考えられる)土地価額分は1平方メートルあたり54.8万円であ」ることは、否認する。この「1平方メートルあたり54.8万円」という数値につき、原告らは、その算出過程を明らかにするべきであるが、それを怠っている。これでは、認否のしようがない。
「54.8万円」という数値がどのようにして出てきたのか、被告が、原告ら準備書面7別表1ないし3記載の数字を使い、考え得る限りの当てはめをした結果、別表2の住戸番号4−30−504の鑑定評価額の「m2単価(万円)」の「土地」34.9万円に、別表1の平成4年の「H11を100とした場合」の157.0パーセントを倍数に引き直した1.57を掛け合わせると、54.793になった。したがって、原告らは、これを小数点以下第2位で四捨五入し、54.8という数字を出したものかと推測される。この計算式によるものであるか否か、明らかにするよう原告らに求める。なお、叙上のとおりであるとして、「34.9万円」という数値がどこから導き出されているのか明らかでない。別表2の鑑定評価額の「m2単価(万円)」の「土地」欄の3つの数値の平均値だとすれば、34.86にしかならない。また、原告らが、別表2記載の3つの住戸のうち、4−30−504についての数値「34.9万円」だけを選択したのだとすれば、極めて恣意的であるといわなければならない。また、次に述べるとおり、別表2は誤っており、全く信用できないものであって、同表中の「34.9万円」という数値も誤りで、それを基礎とする計算は必然的に誤りである。

D 別表2は、鑑定(乙10ないし13)で対象とした物件について記載されているが、以下のとおり誤りがあり、全く信用性がない。

(i) 別表2には、「譲渡価額(万円)」及び「鑑定評価額(万円)」の2つの価額が記載されており、あたかも同時期の価額を1つの表中に並べているように見える。しかし、実際は、「譲渡価額(万円)」は平成7年のものであり、一方、「鑑定評価額(万円)」は平成11年の価額とされているようである。このような表構成は、いうまでもなく相当でなく、いたずらに誤解や混乱を招くものである。

(A) 「土地持分(m2)」がいずれも29.49とされているが、誤りである。先ずもって、原告らは、「29.49」の算出過程を明らかにしていない。被告は、これを明らかにするよう原告に求める。
被告が推測するに、原告らは、敷地面積に各住戸の敷地権割合を乗じて「土地持分(m2)」なるものを求めたのではないかと思われる。しかし、乙10ないし12添付の不動産登記簿謄本によれば、若葉台4−30棟、同4−31棟及び同4−32棟全体の敷地の面積は9069.81平方メートルであり、これに別表2記載の3住戸の敷地権の割合各10万分の324を掛け合わせると、それぞれ29.38平方メートルになり、別表2記載の「29.49」にはならない。

(B) 別表2の譲渡価額の「m2単価(万円)」は、黄色でマーキングされた「譲渡価額(万円)」の「土地」とある欄の数値を「土地持分(m2)」欄の数値29.49で割ったものであり、また、鑑定評価額の「m2単価(万円)」は、同じく黄色でマーキングされた「鑑定評価額(万円)」の「土地」とある欄の数値を「土地持分(m2)」欄の数値29.49で割ったものであるから、(A)で指摘した「土地持分(m2)」の数値の誤りは、必然的にこれらの数値をも誤らせることになり、ひいては別表2全体の信用性を失わしめることになる。

(C) 「譲渡価額(万円)」は、平成7年の譲渡価額として記載されているようである。表の構成上、一見すると「建物」「土地」「消費税」各欄の金額の合計が「計」に記載されているように思える。しかし、これでは計算が合わない。消費税は、建物価額に含まれていると考えれば、「建物」と「土地」各欄を合計したものが「計」となるということであろうか。
ところで、4−32−604(17期)の譲渡価額は5635.3万円が正しく(乙8の3)、別表2の「計」の「5635.0」は誤りである。そのため、「計」から「建物」の数値を差し引いて算出する「土地」の数値も誤りになる。5635.3−2413.6=3221.7万円となるはずである。
同様に、4−30−504(18期2次)の譲渡価額は5519.4万円が正しく(乙9の4)、別表2の「計」の「5519.0」は誤りである。その結果、「土地」の数値は、5519.4−2245.4=3274.0万円となるはずであって、表中の3273.6万円という数値は明らかに誤りである。
何よりも重大な誤りは、4−31−803の物件である。これは、平成11年の18期3次の販売物件であり、平成7年には未発売であった。したがって、「譲渡価額欄」の価額は空棚にされるべきであった。
ちなみに、当該物件の平成11年の発売価額は金3245万円である(乙20)。

(D) 譲渡価額の「m2単価(万円)」のうち、「建物」は、「譲渡価額(万円)」の「建物」の数値を「専有面積(m2)」の数値で割ったもののようである(小数点以下第2位四捨五入)。「土地」は、先に少し触れたように、「譲渡価額(万円)」の「土地」の数値を「土地持分(m2)」の数値で割ったもののようである。しかし、(A)(B)(C)のとおり、「土地持分(m2)」の数値も、「譲渡価額(万円)」の「土地」の数値も誤っているから、これらを基にする数値はすべて誤りである。また、4−31−803については、(C)のとおり、平成7年には未発売であったから、この欄は空欄にされるべきものである。

(E) 「鑑定評価額(万円)」欄の数値は全て誤りである。別表2記載の数値は、原告らの平成12年9月20日付準備書面10頁・表2の数値を引いたものと思われるが、そもそも、小林鑑定士の鑑定(乙10ないし12)によるものでも、志賀鑑定士の鑑定(乙13)によるものでも、あるいは、両鑑定の平均値によるものでもない。誠に杜撰な数値である。
原告らに販売した平成7年当時、消費税率は3パーセントであったが、鑑定が行われた同10年及び同11年には消費税率は5パーセントであった。被告は、それぞれの数値を使って様々な試算をしてみたが、別表2「鑑定評価額(万円)」欄記載の数値は出なかった。
いかなる算出根拠により、かような数値がこの表中におかれたのか、原告らはそれを明らかにすべきである。

(F)(E)のとおり「鑑定評価額(万円)」の数値が誤っているのであるから、鑑定評価額の「m2単価(万円)」の数値も誤っている。なお、「土地」は、「鑑定評価額(万円)」欄中の「土地」の数値を「土地持分(m2)」の29.49で割ったようであり、これが間違っていることは先に述べたが、仮に、別表2の「鑑定評価額(万円)」の数値が正しいとしても、この「土地持分(m2)」の数値が誤っている以上、「m2単価(万円)」中の「土地」の数値は、それに連れて誤りとなる。

(G) 「損害額(万円)」の数値も誤りである。(A)ないし(F)のとおり、別表2の数値が誤っているからである。なお、原告らに損害が発生していないことは、被告準備書面(6)11頁記載のとおりである。

(4) 同(4)について

否認する。
(3)Dで指摘したとおり、原告らが主張の基礎としている別表2が誤っており、全く信用できないからである。なお、原告らは、平成7年は「1平方メートルあたり41.9万円が地価動向を適正に反映した価額であった。」と主張しているが、この「41.9万円」という数値の算出根拠も明らかでない。仮に、別表2中、4−30−504の物件の鑑定評価額の「m2単価(万円)」の数値「34.9万円」に1.20を乗じて求めたものであるとすれば、その「34.9万円という」数値の問題点については(3)CDで述べたとおりである。

(5) 同(5)5について

@ 第1段落のうち、原告らの考え方によった場合、その「建物価額分は1平方メートルあたり、20万円代後半から30万円台」とする部分は、価額の根拠が不明である別表2の4−31−803を除いて、認める。A 第1段落のうち、「価額に著しい不平等をもたらしているのは、土地価額であり」とすることは否認する。被告は、原告らに対し、若葉台団地の分譲住宅を適正価額で譲渡したのであり(被告準備書面(6)10頁、同(7)2頁)、「価額に著しい不平等」はない。

(@) 原告らの主張は、(あ)施行規則第6条第1項は、原告らのいうところの「原価主義」を定めていること、(い)販売価額を土地価額と建物価額とに分けるとすること、について、被告の主張と食い違い、かつ、誤っている。

(A) 施行規則第6条第1項と原告らのいうところの「原価主義」について 原告らのいうところの「原価主義」の内容については前述した。また、施行規則第6条第1項が、かかる「原価主義」を定めたものではなく、同項が掲げる諸費目を合計した金額を目安にした上、地方公社が様々な要素を考慮してその上方であっても下方であっても然るべき価格を決定すべしとしているにすぎないことも、被告が既に繰り返し主張し、本準備書面3頁(2)Aにも記載した。すなわち、施行規則第6条第1項は、被告が分譲住宅の譲渡対価を決定する権限を認め、その基準を示す条項にすぎない(平成12年8月23日付被告準備書面10頁、被告準備書面(6)2頁)。 被告が原告らに譲渡した分譲住宅の価額は、施行規則第11条、第6条第1項に基づき、被告が、いずれも当該時期において、若葉台団地周辺の民間分譲住宅を中心とした市場の動向を考慮し決定した価格であり、適正なものである。
 仮に、原告らにおいてそれに異論があるとしても、原告らにはそれを論難する資格はない。そもそも、施行規則は、行政命令であり、国民の権利義務に直接関係しない行政機関内部の準則であり、行政命令をめぐる紛争、行政命令への適合性の有無は司法審査の対象となるものではないからである(平成12年8月23日付準備書面9頁)。
 この点、東京地裁平成12年8月30日判決(乙26)は、「施行規則は、いわゆる行政命令(行政規則)であって、原告らと公団との間の権利義務関係を規律する根拠とはならない。」とし、その理由について、「法(筆者注;当時の住宅・都市整備企団法)1条は、公団が広く国民生活の安定と福祉の増進に寄与することを目的とする旨定めてはいる・・・が、個々の国民が適切な価格で住宅を購入することまでは目的としていないと解される。また、法30条1項は、「公団は、住宅の建設、賃貸その他の管理及び譲渡、宅地の
造成、賃貸その他の管理及び譲渡(中略)を行う場合においては、(中略)建設省令で定める基準に従って行わなければならない。」と規定し、右建設省令として施行規則(筆者注;当時の住宅・都市整備公団法施行規則)が定められたものであるが、公団が施行規則12条1項に違反して住宅の譲渡等をした場合、不服申立てができる旨の規定がないこと、施行規則12条1項に規定された分譲住宅の建設に要する費用等を公団分譲住宅の譲渡に降し譲受人に開示すべきものとする旨の規定がないこと、その規定の体裁自体、譲受人に対するものではない上、譲渡対価を一義的に確定しうるものではないことが認められる。これらに照らすと、施行規則12条1項は、個々の譲受人の利益を保護したりその権利義務を規律する趣旨の規定ではなく、公団の健全な経営を維持し、その設立の目的を達成するための内部的な準則を定めたものと解するのが相当である。したがって、右規定に違反することが、行政機関内部の問題となりうることは格別、私人たる原告らとの間の法律関係の効力を左右するものではない。したがって、公団が施行規則12条1項に違反したとしても、原告らと公団との間の本件譲渡契約の効力には何らの影響も与えない」と述べている。
 この施行規則の性格に関する問題が、本件の根幹にあるが、原告らは、この議論を回避したまま(この問題も含めて、原告らは、被告の求釈明にほとんど答えていない)、他に目を転じさせようとしているものである。

(B) 販売価額を土地価額と建物価額とに分けるとすることについて 原告らは、土地と建物は別個の不動産であるから(民法第86条)、住宅の価格は集合住宅であれ、戸建て住宅であれ、土地価格と建物価格の合算であるとするのが大原則であると主張し、被告の「分譲住宅譲渡契約は、土地と建物とを個別に売買することを目的とするものではなく、敷地植付建物という一つのユニットを売買することを目的とする以上、譲渡価格を土地価格と建物価格とに分けることは全く意味がない」との主張(被告準備書面(5)4頁、同(6)9頁、同(7)2頁)を「ユニット譲渡論」と名付け、これを特殊なものとして排斥しようとしている(原告ら準備書面9、5頁)。
 しかし、建物の区分所有等に関する法律第22条第1項本文は、取引の実際においては、建物とその敷地の利用権が一体的に処分がされることが普通であることから、「敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分にかかる敷地利用権とを分離して処分することができない。」として、専有部分と敷地利用権の一体性の原則を定めた(財団法人法曹会「建物区分所有法の改正」第1版第1刷169頁)。
 また、不動産鑑定士及び不動産鑑定士補が行う不動産の鑑定評価の適正化を図るために設定された不動産鑑定評価基準(平成2年10月26日付2国鑑委第25号国土庁長官あて土地鑑定委員会委員長)でも、「区分所有建物及びその敷地」を不動産の一類型として掲げ、これを「建物区分所有等に関する法律第2条第3項に規定する専有部分並びに当該専有部分に係る同条第4項に規定する共用部分の共有持分及び同条第6項に規定する敷地利用権をいう」と規定している。
 すなわち、マンションのような区分所有建物については、土地と建物を一体として扱うことが実務上要請されているのである。単に「購入者の買い付け心理の一面を付会するもの(原告ら準備書面9・5頁)」ではない。実際、不動産販売業者が必ずと言って良いほど利用している不動産経済調査月報でも、マンションの価格を土地と建物とに分離することはせず、一体としての価格を掲載している(被告準備書面(7)3頁、「不動産経済調査月報1996年1月度版」乙27)。
 鑑定書(乙10ないし13)も、いずれも自用の区分所有建物及びその敷地としての鑑定評価を行い(乙10ないし12・各2頁、乙13・4頁)、建物及び敷地を一体とした価額を算出している(乙10ないし12・各18頁、乙13・3頁)。
 小林鑑定士による鑑定(乙10ないし12)は、鑑定評価額の内訳として土地価格・建物価格を記載しているため(各1頁)、建物と土地とを分けて鑑定評価を行っているようにも見える。しかし、同鑑定は、「以上の3手法の試算価格のうち、居住空間の快適性が市場価格に反映された比準価格が最も規範性が高いものと判断し、比準価格を採用して鑑定評価額を・・・・円と決定した」とし(各18頁)、鑑定評価額として比準価格(各16頁)を採用している。
 この比準価格とは、不動産の価格を求める鑑定評価の手法のうち、取引事例比較法(多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法)による試算価格である(不動産鑑定評価基準)。
 同鑑定士が行った比準価格の試算の過程は、同鑑定書別表Cに記されており、建物と敷地を分けることなく一体として扱っていることが明らかである。ただ、参考に供するため、敢えて鑑定評価額を土地と建物とに分けるとすれば、積算価格の比(乙10ないし12・各12頁)で按分するとしているだけのことである。 原告らも、その平成12年10月31日付準備書面3頁において、小林鑑定士による鑑定が比準価格を採用していることを異としていない。原告らが、被告の主張を、「第2期譲渡価格の算出根拠と明らかに矛盾した見解であり、この点からしても被告の独自の見解であるユニット譲渡論の論理は完全に破綻している(原告ら準備書面9・6頁)」とすることは自己矛盾であり、かつ、誤りである。
 以上のとおり、「敷地植付建物という一つのユニットを売買することを目的とする以上、譲渡価格を土地価格と建物価格とに分けることは全く意味がない」という被告の従前の主張が、売買の実務に即した正当なものであることは明らかである。販売価額を土地価額と建物価額とに分けるとする原告らの主張こそ誤りである。

(C)原告らの主張によるとすると、土地原価と建物原価とをそれぞれ求め、これを合算したものをもって適正価額とすることになるはずであるが、寄付等により敷地を無償取得した場合、土地の取得原価はゼロであるから、被告は、敷地権付建物であっても建物価額のみで販売しなければならないことになる。しかし、そのようなことがあり得ないことは、原告らとて否定しないであろう。このような場合に、近隣の敷地権付建物を一体と考えてその相場に合わせた価額を設定し販売することこそ通常である。すなわち、原告らの主張こそが、敷地権付建物販売の実務からかけ離れたものであることは、一目瞭然である。

B 第1段落のうち、「土地基本法などでは公社など公的機関は土地取引においては公示地価を指標にすべきものとされ(むしろ地価公示制度はそのための制度である)」との主張は争う。 土地基本法には、原告が主張するように「公的機関は土地取引においては公示地価を指標にすべき」と直接規定した条文はなく、「公示地価」という文言もない。また、「指標にすべき」とは具体的にどのようなことを意味しているのかも明らかでない。

C 第2段落は、否認する。 地価公示制度は、地価公示法により定められている。
 また、土地基本法第6条ないし第8条は、地価公示制度ないし同法第16条を遵守すべきとは定めていない。すなわち、同法第6条ないし第8条で守るべきものとされているのは、同法第2条から第5条までに定める「土地についての基本理念」である。同法第16条の規定は、同法第2章「土地に関する基本的施策」中に定められており、同法第6条ないし第8条でこれを遵守すべきとはされていない。
 さらに、同法第6条ないし第8条は、被告に具体的な義務を課すものではない。

D 第3段落のうち、土地収用法第3条30号に、地方住宅供給公社が、一定の場合に土地を収用することができる旨定められていることは認めるが、その趣旨は争う。 同法は、土地を収用し、または使用することができる公共の利益となる事業を限定し、土地の収用または使用に関する手続や効果等を定めているにすぎず、収用した土地を売却する際の価額決定については何も定めていない。

(6) 同(6)について

 否認する。
 ここに記載されている1平方メートルあたりの価額すべてが誤りであることは、(3)(4)で検討したとおりである。
 また、被告は、原告らに対し、若葉台団地の分譲住宅を適正価額で譲渡したのであり(被告準備書面(6)10頁、同(7)2頁)、「適正価額の約2.7倍で譲渡していた」との事実もない。
 原告らが購入した若葉台団地17期、18期1次・2次の譲渡価額と当時の市場価額との間に著しい価格差は存在しなかった(被告準備書面(7)3頁、乙27)。不動産経済調査月報1996年1月度版(乙27)記載の平成7年横浜市内のマンションの平均価格は、同記載の民間業者販売物件を調査対象としたものであり、原告らが購入した若葉台団地の物件は含まれておらず、比較の資料とすることに何ら問題はない。
 また、平成7年に、若葉台団地周辺で販売されたマンション(東急田園都市線青葉台駅からバス利用、最寄り駅がJR横浜線十日市場駅、横浜市旭区内、の条件で抽出したもの)の譲渡価額を専有面積で除した1平方メートル当たりの単価は、下記棒グラフの灰色で示したとおりである。一方、平成7年の若葉台団地17期、18期1次・2次の平均譲渡価額を平均専有面積で除した1平方メートル当たりの単価は、下記棒グラフの黒色で示したとおりである。これらを比較してみると、若葉台団地の各物件の譲渡価額は、販売当時の周辺のマンション市場価額と大差なく、当時の適正価額であったことが明らかとなる。

このように原告らが若葉台団地の分譲住宅を購入した当時、その譲渡価額は、まさに適正価額であったのである。

第2 敷地植付建物の販売価額の算定方法と消費税との関係

1 敷地植付建物の販売価額は、原告らが主張するように土地と建物とに分けることはできず、一体のものとして算定することが実務上要請され、当然の取り扱いとされていることは、すでに明らかにした(本準備書面14頁)。

2 原告らは、消費税が建物についてのみ課されていることをもって、自らの主張を維持しようとしている。しかし、以下に述べるとおり、それは何ら原告らの主張の根拠になるものではない。 消費税が建物についてのみ課されるのは、消費税法第6条、別表1が土地の譲渡を非課税としている結果である。消費税法が、土地の譲渡を非課税としたのは、土地は消費の対象となるものではなく、資本の移転に過ぎないとされたためである(株式会社税務経理協会「実務消費税法」104頁)。このように、消費税が建物についてのみ課されることは、政策的な理由によるものにすぎず、敷地権付建物の譲渡価額の決定には全く関係がない。原告らの主張は、税法が変わればその根拠を失ってしまう。
また、販売価額中に消費税を課す対象として建物価額が表示されることがあるとしても、それは、国税庁の消費税の基本通達に基づいて算出された結果にすぎない。
このように、敷地権付建物の売買において建物についてのみ消費税が課されるとしても、そのことは、被告の主張と何ら矛盾するものではない。

第3 被告販売担当者らの発言について

1 平成12年12月27日付原告ら準備書面添付「購入の際に被告より受けたセールストーク」一覧表のうち、値下げをしないというような趣旨の発言があったことは認める(ただし、具体的な日時、場所、発言者名、表現までは判らない)。その余は、否認する。

2 また、原告らは、平成13年4月1日施行の消費者契約法を引き、被告の販売担当者らの発言が、あたかも同法に違反し、被告が責任を負うかのような主張をしている(原告ら準備書面9・3頁)。しかし、同法は、平成13年4月1日の施行後に締結された消費者契約について適用されるのであり(同法附則)、本件とは無関係である。

3 上記一覚表に記載されたような趣旨の販売担当者の発言は、あくまでもその個人的見解にすぎない(被告準備書面(6)3頁、同(7)2頁)。このことは、当時の販売担当部長餅取の発言についても同様である。 大阪地裁平成10年3月19日判決(乙22)も、被告ら販売担当者らの言動として、次期以降の販売価格を値下げする予定はない旨回答したこと、当該住宅地の値下げ販売の予定はない旨回答したこと等を認定した上で、「被告ら販売担当者らの言動は、・・・・いずれも、個々の被告ら販売担当者らの見解として述べたもの」であるとして、同様の判断をしている。
 また、東京地裁平成12年8月30日判決(乙26)では、旧住宅・都市整備公団の副総裁の「一旦出した以上、これは非常に、その値下げは難しいと思います。・・・(中略)・・・あるところは売れなかったからということでそれを動かすということは、他にも大きな影響があり、これは、事業運営全体に非常に大きな影響を及ぼします。そういうことからしてできない」というテレビ番組における断定的にすら聞こえる発言について、「公団の当時の一般的な販売方針ないし経営姿勢を表明したにとどまり、将来、値下げ販売をしない旨約束したとまでは解されない」と判断していることに注目すべきである。
 ちなみに、被告は、原告らに対する分譲住宅の販売当時、値下げ販売は全く予定していなかった。したがって、当時、被告の販売担当者らの発言内容に間違いはなく、発言自体に違法性は全くない。また、「不実の告知・不利益事実の不告知(原告ら準備書面9・3頁)」でもない。

4 さらに、原告らは、公社法第47条により宅地建物取引業法の適用が排除されていることを、被告が説明義務を負うことの根拠とする。 しかし、原告らの主張は、論理に飛躍がある。すなわち、原告らは、同法の適用が排除されている理由は、「被告のような公的性格を有する団体が消費者を欺岡し、消費者に不利益な結果をもたらすことが通常考えられないからであり、物件取得者保護のため法的規制を施す必要性が存しないと期待した」ことにあるとする。この理由から導き出されることは、公的性格を有する団体は、法の規制が無くとも、同法が民間業者に義務として課しているのと同程度の重要事項説明をすることが期待できる、ということであって、原告らが主張するように、被告に民間事業者を上回る説明義務を課すことにはならない。原告らが、「宅建業法上規制されている説明義務にとらわれずに住宅取得者の利益を阻害するおそれのある事項につき、広く説明義務を負うと解するのが合理的である(その意味で、宅建業法上の重要事項説明義務が課せられているにすぎない民間事業者とは異なるのである)」と主張するのは原告ら独自の見解であって、そのことは、既に述べた(被告準備書面(6)4頁)。
 また、原告らは、「従って、将来値下げ販売により、原告ら取得住宅の物件価値を下落させる可能性が存する場合には、被告はその旨を説明をする法的義務を負うと解するべきであ」る、とするが(原告ら準備書面9・4頁)、当時、被告は値下げ販売を予定していなかったのであるから、原告らの主張は、そもそもその前提を欠いている。

以上


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