2002/1/13 |
平成12年(ワ)第1157号 損害賠償請求事件 (1) 原告らは、被告が、若葉台団地の販売価額を決定するにあたり、原告らに対する法的義務として「原告らが考える適正価額」設定義務を負っていたかのように主張しているようである。 「原告らが考える適正な価額」の意義自体判然としないが、原告らが、「原価に基づく適正な価格による譲渡義務」なるものを主張していることからすれば(原告ら準備書面7・13頁)、結局のところ、施行規則第6条第1項が掲げる諸費目の合計金額を指しているようである。 つまり、原告らは、原告らのいうところの「原価主義」について、同項が掲げる諸費目の合計金額をもって分譲住宅の譲渡の対価とすることと考え、これを前提として、被告は、分譲住宅の価額を、上記諸費目の積算による一定の金額に決定する義務があると主張しているようである。 (2)@ しかし、被告分譲住宅の各購入者に対する法的義務として適正価額設定義務なるものを認める法的根拠は何ら存在しない。 施行規則第6条第1項は、「積立分譲住宅の譲渡の対価は、積立分譲住宅の建設費、積立分譲住宅の建設に要した資金の利息又は利息に相当する金額、分譲事務費、空家等による損失を補てんするための引当金及び公租公課を合計した金額を基準として、地方公社が定める。」と規定している。 同項は、分譲住宅の譲渡の対価につき、建設費をはじめとする幾つかの費目を掲げ、それらを合計した金額を「基準」として「地方公社が定める」としている。すなわち、同項は、分譲住宅の譲渡対価の決定に際して、同項が掲げる譜費目を合計した金額を標準として決定することを要請してはいるが、決して右各諸費目を合計した金額をもって分譲住宅の譲渡の対価とするとは定めておらず、要するに右金額を目安にした上地方公社が様々な要素を考慮してその上方であっても下方であっても然るべき価額を決定すべしとしているのである(平成12年8月23日付被告準備書面10頁、被告準備書面(6)2頁、同(9)14頁)。つまり、被告が販売価額を決定するに際し、市場相場等をどのように加味するかは被告が自由に判断することができるのである。 被告は、この施行規則に基づき、これから販売しようとする物件が存在する地域において、他社の物件が敷地権付建物という1つのまとまりとしてどのような価額で販売されているのかを調査し、それそれの物件の諸要素を総合勘案して、いくらならその地域で他社物件と競り合って売ることができるのか、という視点から分譲住宅の販売価額を決定している(被告準備書面(10)3頁)。 若葉台団地17期、18期1次・2次についても、被告は、施行規則に基づき、諸要素を総合勘案して販売価額を決定した。結果的に、その価額が当時の市場における適正価額であったことは、3頁の棒グラフが示している。 A なお、福岡地裁平成13年1月29日判決(乙47)は、住宅・都市整備公団承継人都市基盤整備公団の「適正な価格決定義務」を、次のとおり否定した。 「施行規則(筆者注;当時の住宅・都市整備公団法施行規則)は・・・・行政規則であって、・・・・違反が直ちに私法上の契約関係たる本件売買契約の効力、内容に影響を及ぼすものではないと解される。・・・・施行規則12条1項(筆者注;本件においては、施行規則第6条第1項に相当する)は、公団が同項所定の各原価項目の合計額を基礎にした上、事業の性質上考慮して当然といえる分譲住宅市場の需給のバランス及びその動向等その他の要素を加味して定めることを許容するものと解するのが相当である。・・・施行規則12条1項は、原告ら主張にかかる原価主義を定めたものとは認められず、同項を根拠として公団に原告ら主張に係る個別原価主義により譲渡対価を定めるべき法律上の義務があるとする原告らの主張には理由がない。」「公団の右公共的性格から直ちに、公団の個々の購入者に対する法的義務としての適正価格決定義務を認めるのは困難である。」「住宅分譲は、公団が独占的に行っているものではなく、その意味で住宅を購入しようとしている者にとって公団は住宅分譲業者の選択肢の一つであって、各購入者は民間企業等他の分譲業者による住宅分譲と比較、対照しつつ、譲渡対価等の契約条件を十分検討した上自由意思により本件売買契約を締結することができることに照らすと、公団が交渉により値引き等をすることがないという事実によって、原告ら主張の各購入者に対する法的義務としての適正価格決定義務を導くことはできない。」 事件の本質を見据えた、誠に妥当な判断である。 (3) この施行規則の性格に関する問題が、本件訴訟の本質であり、唯−の争点である。 原告らは、本件訴訟の提起にあたっては施行規則を根拠にしていたものの、その後、施行規則の性格に関する議論を意識的に回避し、本件訴訟の初期に被告が行った求釈明に答えることなく、今日に至っている。この本質的な問題を解決しないまま、譲渡価額を土地部分と建物部分とに無理矢理分解し、その土地部分のみを取り上げて独自の議論を展開するのは、全く不毛なことである。まず、原告らが、被告の求釈明に答えなければならない。 被告は、改めて、原告らが施行規則の性格をどのように解するのか、それを明らかにするよう求める。原告らが、これに答えないということだとすれば、この唯一の争点について、原告らは積極的に争わないということである。したがって、直ちに審理を終結すべきである。 なお、いうまでもなく、施行規則の性格に関する問題は、証拠関係とは関わりなく判断されるべき法律上の問題であり、しかも、施行規則が行政命令であることは議論の余地がない。すなわち、本件訴訟において、要証事実は存在しない。 3 平成13年11月21日付原告らの求釈明申立について 被告は、裁判所から、「第1次譲渡価格の算定方法及び算定資料を開示すること」を勧告されたとは考えていない。 上記2のとおり、本件訴訟の唯一の争点は、施行規則の法的性格という証拠関係とは関わりなく判断されるべき法律上の問題である。しかも、住宅・都市整備公団承継人都市基盤整備公団に対する本件と類似事件の訴訟において、住宅・都市整備公団法施行規則は行政命令であり、同規則第12条第1項(本件における施行規則第6条第1項に相当するもの)は原告らが主張する原価主義を規定したものではないことは、続けて判示されているところであるが(乙21、乙47)、その理は本件においてもいささかも変わりない。こうした考え方からすると、上記算定方法及び算定資料を開示することは何ら本件の判断に資するものではない。これらの開示は、全く不必要であり、被告は、その開示要求に応ずるつもりはない。 4 2001年12月26日付原告ら準備書面(12)について 原告らは、単に「バス利用」という条件を設定し、神奈川県内の新築マンションと比較して若葉台団地若葉台団地17期、18期1次・2次の物件は割高であったと主張する(原告ら準備書面12)。原告らが抽出した物件には、若葉台団地とは全く別の行政区・沿線に属する」戸塚・東戸塚(戸塚区・JR東海道線・横須賀線)、上大岡(港南区・京浜急行線)金沢八景(金沢区・京浜急行線)、弘明寺(南区・京浜急行線)、綱島(港北区・東急東横線)、鶴見(鶴見区、景品東北線)所在のものが含まれており、宮前平(川崎市宮前区・東急田園都市線)に至っては、川崎市という他市に属するものである。 しかし、若葉台団地17期、18期1次・2次の物件の価額の相当性を検討するためには、若葉台団地周辺の物件と価額を比較すべきことは、言うまでもない当然のことであり、それは、正に、被告が準備書面(9)ないし(11)で行ってきた作業である。
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